【コア エクスパンション】

 

 

 

 

 

 

 

メリッサは 暗い夜道を帰宅途中だった。

 

道の両側の街灯が 等間隔に ずっと 向こうの坂の上まで

 

連なっているのを 前方に見ながら

 

昼間の彼のことについて想いをめぐらせていた。

 

なんで、アポロンは私に気がつかなかったのだろう?

 

そう。

 

メリッサが 会社の昼休憩に コンビニに寄ったときに

 

普段ならその時間にそこにいるはずのない アポロンが

 

メリッサのいるコンビニに入ってきたのだった。

 

メリッサは とっさにアポロンに手を大きく振って気づいてもらおうとしたのだけど、

 

次の瞬間 アポロンは、メリッサの目を無表情で見て

 

そのまま 2階のトイレの中へと消えていったのだ。

 

メリッサは、同僚のカイアに 早く行こうと呼ばれて

 

外に出た。

 

空を見ると 雲ひとつない空が広がっていた。

 

コンビニの出口はひとつしかないのだから

 

どうせ しばらくしたら アポロンが出てくるはずなんだからと、

 

メリッサは カイアに訳を言って コンビニのすぐ外にある

 

白いベンチで 今買った昼食のサンドイッチを食べることにした。

 

二人は 昨日のドラマの話しとか たわいもないことを

 

話していたのだけど、

 

しばらくして、カイアが口を開けた。

 

「アポロン…出てこないよね。」

 

メリッサも 実は気づいていた。

 

でも、次の瞬間

 

それまで雲ひとつない空に 太陽が地面を照りつける空だったのに、

 

黒い雲が ワサワサとやってきて

 

ゴウゴウとした雨が降り始めた。

 

メリッサとカイアはベンチから 一番近いひさしのあるビル陰へと

 

ダッシュした。

 

アポロンのいるはずのコンビニが 雨で煙って見えない。

 

仕方なく、メリッサはひさしのある路地を歩いて 会社へと戻っていったのだった。

 

あの後、午後、

 

仕事場を少し離れて

 

何回かアポロンに電話したのだけれど、

 

アポロンの携帯の電源が切ってある。

 

メリッサは、

 

街灯が夜道を等間隔に照らす その小さな光たちの中で

 

アポロンの自分を真っ直ぐに だけど 自分を通り越して他のものを見ている目の映像を

 

くりかえし再生しては、

 

アポロンがその時 何を感じていたのかを 感じようとしていた。

 

メリッサが坂の一番上に来たとき

 

視界に入ってきた 下り坂のずっと向こうの 繁華街の光へとつづく

 

街灯の連なりを見て ハッとした。

 

メリッサの右と左に見える街灯は

 

メリッサを中心として見ると

 

全く違う方向にある光なのだけれど、

 

それが、メリッサが歩くと同時に時間とともに

 

左右それぞれ、ひとつ隣の街灯の光がメリッサを照らす。

 

そして、今いるところから ずっと先を見ると

 

ま左とま右に見えていた光が

 

メリッサの前方で ほとんど ひとつの光の線となって

 

街の光の海へと注ぎ込んでいるのだった。

 

そう。

 

全く違う方向のものと見えていたものが

 

先を見るとひとつになっていた。

 

後ろを見ても 大きな平地のなかでひとつになっていたことに気がついたのだった。

 

私とアポロンは あの時

 

交差していないように見えて

 

少し上の次元から見ると ちゃんと交差していたんだわ。

 

私はアポロンに気づいて アポロンのほうは私に気づかなかったように見えたのだけど、

 

アポロンも 私も見えていたんだ。

 

この世界に 二人でいるっていう感覚のところが。

 

ちゃんと 交わっている。

 

メリッサは、この発見に 嬉しくなった。

 

そうだ。

 

現実を 今のまま のように見るのじゃないこともあるんだって気づいたからだ。

 

今までの メリッサの理解では

 

昼間の出来事は すれ違い以外のなにものでもない。

 

でも、今のメリッサには気づいている。

 

昼間とか 夜になった今とかも 実は関係ないのだけど、

 

常に 私とアポロンは 繋がっている。

 

いつだって、交わっているんだってことに…。

 

メリッサは、

 

明日の朝

 

近所のお花屋さんで 虹色の花束をこしらえて

 

アポロンのもとへと渡しに行こうと

 

想い描きながら

 

飛び跳ねる気持ちで 夜の夢でアポロンと会うことのできる寝床のある家へと 少し駆け足で向かった。

 

夢で会うアポロンと

 

昼間に会うアポロンが

 

メリッサの中で繋がっていた。

 

そして、夢だろうが 昼間だろうが メリッサにとっては

 

どうでもいいことになっていた。

 

大事なことは、メリッサがアポロンを愛しているということ。

 

そして、アポロンも同じようにメリッサのことを愛しているっていうことを

 

ちゃんとわかっていることだった。

 

そして二人が この世界で、

 

はじめから そして、

 

これからも ずっと 永遠という時のなかで、

 

繋がっているっていう気づきが

 

嬉しくて たまらなかった。

 

そして

 

次の日から

 

メリッサが心の中で アポロンのことに想いを馳せると

 

かならず 目の前にアポロンが姿を現すようになった。

 

そう。

 

真っ直ぐに メリッサの目を見て

 

笑顔で 駆けてくる。

 

メリッサが

 

次元が高いところでは、交差してるっていうことに気づいた途端に

 

かならず交差する現実の次元へと

 

二人は移動していた。

 

よりスムーズで望み通りの世界へと

 

二人は そろってシフトしていた。

 

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